ブラックノイズ 荒聞』〔ホラーミステリ〕
BN荒聞_書影&obi
原題:荒聞 The Whisper
著者:張渝歌 (ジャン・ユーゴー)
出版社:台湾・大田出版
2018年2月刊行 全319頁

台湾原住民神話、日本統治時代の史実、
台湾土着の呪術、霊異現象……
全てが混然一体となった、
“台湾にしか生まれなかった”
ホラーミステリの傑作が登場!

◆あらすじ
 かつては羽振りが良かったが、いまは借金に追われる呑んだくれのタクシー運転手・吳士盛(ウー・シーション)。娘は家出し、妻とも日々言い争いが絶えない。ある日、タクシーの溜まり場に放置されていた一台の車の中を漁るうち、小さなカセットテープレコーダーを見つける。何の気もなく再生ボタンを押してみると、男のかすれた声が漏れ出た。
(雑音)……み、なこ……? ……」

 士盛の妻、百貨店で清掃の仕事をする郭湘瑩(グオ・シァンイン)は、近頃ずっと耳鳴りに悩まされていた。耳鳴りは次第に明瞭になり、台湾語や日本語と思われる言葉を成す幻聴になった。ある夜、激烈な幻聴と頭痛に耐え切れなくなった湘瑩が、声に導かれて家の屋上に上がると、目の前には竹林が広がり、12歳くらいの少女が泣いていた。
「……みなこ……、みなこは私を置いて、新高山の蛮地へ行ってしまったの……」
そこに、異様な殺気を発し、長い髪に和装のもう一人の少女が現れ、泣いている少女に近づくとその首を絞める。

(後略)

◆本作品の特徴
①『リング』に匹敵する“本当に怖い”ホラーミステリーの傑作!
 百年の時空を超えて耳元へ届く声。その声を“受信”してしまった者は、もう逃げられない。謎の声の中で繰り返し囁かれる「みなこ」とはいったい何者か? 声によって、玉山麓の樹海に呼び寄せられた者たちの末路は? そして、悪霊に対抗するために怪しい尼僧が放つ「毒を以て毒を制する」呪法とは? 著者は本作で、現代の台北を舞台に、日常の薄皮一枚下に起きているかもしれない恐怖を描き出した。

②日本統治の歴史、原住民の精神世界、台湾民俗文化が紡ぐ、台湾でこそ生まれた作品
 著者は本作品中に、日本統治時代の史実、当時の台湾人と日本人の関係、外省人と日本人のつながり、台湾原住民(今回はブヌン族)の精神世界と伝説、台湾社会における原住民の苦境、活発な社会運動、そして台湾民俗文化の最もディープな部分である呪術までをも取り入れた。それらは台湾という島の上で実際に存在し、現在の台湾を構成しているものの一部である。こうしたリアルな台湾的要素が絶妙に配置され、本書を単なる都市伝説、あるいは単なる霊異作品ではない、「台湾でこそ生まれたホラー小説」として特徴づけている。

③台湾の実力派新鋭作家の初長編作品にして大力作
 本書の著者・張渝歌(ジャン・ユーゴー)は、1989年生まれ。本書の執筆時点でまだ20代。医師として病院に勤務したのち、専業作家に転向したという異例の経歴の持ち主。本作品が初めての長編だが、台湾ならではの種々の要素を鍵にして怪異の謎を解いていくミステリ仕立てのホラー作品にまとめ上げた筆力は圧巻だ。さらに、著者は本作の骨子に、父と子、妻と夫、兄弟姉妹など家族間の確執と和解というアジア的なテーマを据え、登場人物たちが絶望から再生に至る物語として描いており、おどろおどろしい怪奇譚ながら、読後感が非常に爽やかな快作に仕上がっている。

「荒聞」書影
 ↑台湾原書カバーデザイン

◆著者プロフィール
張渝歌 (ジャン・ユーゴー) 
1989年台中生まれ。国立陽明大学医学院医学部卒業。医師として病院に勤務した後、現在は作家・映画脚本家として執筆活動中。ドラマ脚本「只剩一抹光的城市(一すじの光だけが残る街)」(2014年)が台湾文学館文学良書、文化部テレビ番組脚本創作賞を受賞。本書の他、推理小説集『詭辯』(2015年、要有光出版)がある。本作は、友人から「自宅にいるときに突然、”まるでラジオから聞こえてくるような”奇妙な音声が、淡々とある話を語る」のが聞こえ始め、その後、自分と祖母が怪異現象に遭った」経験を聞いたのが、執筆の発端。その後、中華系とマレー系の文化が融合したマレーシアの「ニョニャ料理」を食べているときに、「台湾人、原住民、日本人の文化や歴史が融合して形作られた今の台湾の特色を表現する作品」を書こうと思いつき、本作品が生まれたという。
張渝歌氏2019

文藝春秋より刊行予定
太台本屋 tai-tai books 日本語版権独占代理