店員Sです。引き続き、2019年夏の北京市内の書店めぐりをお送りします。


‟北京の竹下通り”の入り口にある国営書店
 
【8軒目】南鑼書店
 「北京の竹下通り」こと、雑貨店やおやつ屋さんなどが集まり、観光客に大人気の「南鑼鼓巷」に来てみたら、入り口に「南锣书店(以下、「南鑼書店」)という建物が見えました。
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 書店のようです。
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 入ってみると、比較的新しいようで、シンプルで気持ちの良い書店空間になっています。
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 しかし、書架はスカスカで、お客さんより店員さんの方が多かったです。
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 こういうやる気のない書店は絶対に国営・新華書店の支店でしょう。
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 でも、この雑誌はちょっと気になる。特集は「猫:相手にしてくれない」 (笑)

 そして、最近の中国の本のデザインは本当に美しいです。
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●南鑼書店
北京市东城区地安门东大街89号 


古跡の中にある「最も‟北京み”のある」古書店

【9軒目】
正陽書局

 こちらは西四南大街にある「正陽書局」。
 灰色の塀に囲まれた伝統的な四合院の中に、古書店があります。
 ネットで北京の書店事情を調べていたら、このたたずまいに看板猫がいる写真を見つけ、グッときて訪問してみました。
 
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 四合院の中央には、灰色煉瓦積みの古い塔「萬松老人塔」があります。
 元代の高僧・萬松の骨を納めたもので、なんと800年の歴史があり「北京で一番古い煉瓦の塔」だそうです。
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 中庭には、葡萄やざくろがなっていました。

 中庭の半露店の軒下にも、本が並べられています。書店でお茶を注文できるので、気候の良い季節であれば、ここで本を読んだり、ときどき庭を眺めたりしたら楽しいでしょうね。残念ながら、今回はまだ暑すぎますし、蚊も多かったので、外でのお茶は諦めました。
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 四合院の南側の一部が古書店の「正陽書局」(下の写真の右側のすだれが入り口)
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 正陽書局の店内はこんな感じ。
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 扱っているのは主に「老北京」(昔の北京)に関する本です。
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 書架の本は、老北京の風物、歴史、建築、文学などテーマごとに丁寧に分類されています。
 この数年は台湾ばかり気にしがちなSも、中華世界への興味は、やはり中国本土の文化や歴史、文学や芸術からスタートしています。特に「老北京」や「老上海」の風俗や風景は、かつてのSの大好物。ここの書架に並ぶ本のタイトルを眺めていると、またむくむくと興味がわいてきます。
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 正陽書局の看板猫さん「磚磚(チュァンチュァン)」。
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 たくさんのお客さんが中庭を出入りしても、我関せずで好きなように歩いたり寝そべったりしていました。これぞ、猫。


渋ーい古書店を開いたのは 七代前からの北京っ子

 いくつかの報道を読むと、正陽書局は北京の文人から「最具京味的書店」(最も‟北京み”のある書店)と言われているそうです。

 こんな渋いテーマの、しかも本物の古跡の中にある古書店を運営しているのは、そうとう年配の裕福な趣味人かな?と思いきや、まだ30代半ばの男性・崔勇さんです。

(以下、帰ってからネットで調べた内容です)
 崔さんの家族は、七代前から大柵欄(北京・前門にある清代からの商店街。「北京の浅草」のようなところ)に住む生粋の北京人。子供のころから自分の住む街・北京が大好きだった崔さんは、北京らしい風物や、それを記録した書籍が徐々に失われていくのが残念で、老北京に関連する書籍を集め始めたそうです。

 その興味が高じて、勤めていた外資系企業を26歳で辞め、2009年、前門に「正陽書局」をオープンしました。店名は、崔さんの地元でもあり、最初に店を開いた場所・前門(正式名称は「正陽門」)に由来しているんでしょうね。以前店を出していた場所の賃貸期限が来たので、2014年に現在の場所に移って来たそうです。
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↑店内から、すだれ越しに中庭を見たところ。とても暑い日でしたが、涼を感じる、心の落ち着く眺め。

 ネット上にある報道記事(こちら)を読むと、正陽書局は、老北京が好きなたくさんの読者に愛されているようです。
ネット書店に上がっている書籍でも、わざわざ正陽書局に出向いて購入する人」や、
正陽書局で2000元以上(≒3万円以上)する本を購入して、『ここに置いておいて、みんなに見せてよ』と持ち帰らなかった人
数万元(≒数十万円)の価値がある古書を、『この書店は素晴らしい。北京の文化を保護、継承している』と、寄付してくれた人
などがいたとか。

 経済発展の進む中国でも、こんな古いものや古い本を愛して、人生まで賭けてしまう若者がいるのですね。なんだかほっとします。

●正陽書局
北京市西城区西四南大街43号


一見ふつうのブックカフェ、の奥に出現する巨大な……

【10軒目】紅楼公共蔵書楼
 正陽書局から出てきたら、道の向かいの建物の窓に、大きく「」と書いてありました。
 書店でしょうか?
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 道を渡って行ってみると、入り口には「公共蔵書楼」の表示が。
 蔵書楼? 図書館でしょうか?
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 中に入ってみると、書架とソファがゆったりと置かれた、奥行きのあるこんなスペースが広がっていました。ブックカフェでしょうか?
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 書架にある本は販売しているようです。やはり書店?
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 ブック化カフェ的スペースを、どんどん奥まで進んでいくと……、
あれ?なんかさらに空間がある!
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 なんと!巨大な図書ホールが現れました! 
 奥にこんな大きな空間があるとは、道に面した入り口からは想像もつきませんでした。
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 この雰囲気は、どう見ても図書館なのですが「公共蔵書楼」とは何でしょうか?

 カウンターに貼ってあった説明を見ると、一般の人、研究者、作家、出版社など、いろいろなところから寄贈(または委託)された本を、みんなで閲覧、貸出利用できるようにする図書館のようです。
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 出版社から寄贈されたものもあるので、一部、新品(まだシュリンクも切っていない!)本もあります。
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 こちらは小学生の読み物の棚。子ども向けの読み物は、子どもが成長したらもう読まなくなりますので、こうして、下の子どもたちに「おさがり」していくのは良いかもしれませんね。
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 ↑真ん中にある『窗边的小豆豆窓ぎわのトットちゃん)』は中国で1000万部以上売れています


みんなで収蔵してみんなでシェアする「みんなの蔵書館」

 庶民の街並みに突如として出現する巨大公共図書空間「紅楼公共蔵書楼」。
 あまりに意外で、興味深い場所でしたので、帰国後、少々調べてみました。

 「紅楼公共蔵書楼」の建物は、1930年代に建てられた有名な大型映画館紅楼電影院」でした。多くの映画ファンに愛された紅楼電影院も、施設の老朽化で2012年に閉館しました。その後、この場所をどう利用するか、この建物が位置する北京市西城区政府(区役所)と市民との間で協議が重ねられ、建物の大規模なリノベーションを経た2018年4月、「紅楼公共蔵書楼」としてソフトオープン。

 「衆蔵(みんなで収蔵する)、共閲(共有して読む)、分享(経験をシェアする)」をテーマに、書店、ブックカフェ、イベントスペース、図書館という、本をめぐる4つの役割を兼ね備えた公共の場所として活用され始めました。西城区政府が運営母体となり、1年間の試運用期間の後、今年2019年4月に正式オープンしたそうです。
 
 いちばん奥の巨大図書館は、もちろん映画館当時の上映ホールをそのまま利用したもの。2000平方メートルの面積があります。ソフトオープン以来の1年間で、60名以上の著名作家、9社の出版社、そして多くの市民から8万冊を超える本の寄贈、委託があったそうです。Sが書架を見たところ、まだ3~4割くらいの空きスペースがあったので、もう少し本が増えても大丈夫ですよ。

●紅楼公共蔵書楼
北京市西城区西四南大街24号


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 「紅楼公共蔵書楼」のような、 自治体や企業と市民(個人)が一緒になって「‟公共の蔵書”を作ろう」という動きは、新しいと思います。
 「正陽書局」でも、数万円の価値のある古書を「ここに来る他のお客さんにも見てもらいたい」とそのまま置いていった、という話がありましたが、北京のこのあたりでは「良い本はみんなでシェアしたい」という意識の人たちが集まっているかのようですね。

 奇しくも向かい合う2つのブックスポットの物語に、北京の読書人の本に対する愛情や、意識の高さ、懐の深さを感じました。
 
 普段は台湾推しの店員Sですが、北京のこういう奥の深さも大好きです。

 2019年夏版、店員Sの北京書店めぐり、あと1回お付き合いください。

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「2019年夏版 店員Sの北京書店めぐり その1」は→ こちら
 (西単図書大大廈、西西弗書店 SISYPHE、MUJI HOTEL BEIJING 内 BOOK LOUNGE、Page One 北京坊店)

「2019年夏版 店員Sの北京書店めぐり その2」は→ こちら

  (王府井書店、鍾書閣、万聖書園)
 

「2019年夏版 店員Sの北京書店めぐり その4」は→ こちら
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