店員Sです。数年前、台湾・台東県にある「国立台湾史前文化博物館」に行きました。

台湾史前文化博物館
 国立台湾史前文化博物館サイトは→ こちら
 (20207月現在、改装のため休館中。2021年再オープン予定)

 台湾東部は5000年以上前の新石器時代から人が暮らしていた形跡があるそうです。史前文化博物館のある卑南地区周辺でも、35002500年前に「卑南文化」が栄え、多くの遺跡が発掘されています。

 博物館では、卑南文化に特徴的な「(ヒスイ)」の加工品が多数展示されていました。
玉
 工業製品かと思われるほどの整った円環や、ストロー型に加工されたものなどもあり、非常に硬くて加工が難しい玉を、先史時代の人びとがどうやってこんな精巧に加工できたのか、驚嘆しました。
 中でも印象に残ったのが、「人獸形玉玦(じんじゅうがたぎょっけつ)」です。
 これ⇩です。
人獸形玉玦
 何と言ってもその形がユニーク。
 腰に手を当てた二人の人間の頭上に、一頭のネコ科の動物が乗っているのです(動物は雲豹ではないかと言われています)
 台湾人は、先史時代からデザインセンスがあったんですね(そして先史時代から「猫好き」だったんですね)。

 人獸形玉玦は、台湾東部のほか、北部でも発掘されているそうですが、ここに収蔵されている人獸形玉玦の一つは、台湾の国宝に指定され、台湾史前文化博物館のマークにもなっています。

 前置きが長くなりましたが、今日紹介する『風暴之子』は、著者がまさにその「人獸形玉玦」にインスピレーションを受けて書いた、新石器時代の台湾舞台にした冒険小説です。


 『風暴之子』 著/葛葉 イラスト/nofi
      (小説/蓋亜/2020年)

 風暴之子_書影

 博客来リンクは→ こちら

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 大海の真ん中を漂流するカヌーの上で、息も絶え絶えの一人の少年。

 意識を失いかけたその時、「生きたいか?」と声が聞こえる。
 目を開けると、身体に斑紋のある大きな獣が語りかけていた。
 ――もうすぐ嵐が来る。嵐から逃げてそのまま渇き死ぬか、嵐へ突っ込んでいき、陸へ辿り着くか……。
 迷わず嵐を選んだ少年に、獣は何かを手渡した。

 海辺の集落に暮らすダイラスは、少女ながら、経験深い勇者ヤウォに弟子入りして弓を習っていた。ある年の嵐で、ヤウォの娘婿と孫が川に流された。娘婿の亡骸は見つかったが、孫のヴァリは行方不明のまま。以来、娘のパナは正気を魂が抜けたように暮らしてきた。


 今年の嵐の日、ヤウォとダイラスは、海岸に打ち上げられたカヌーから、一人の見知らぬ少年を救い出す。少年の手には、行方不明になったヴァリが身に着けていたヒスイが握られていた。一命をとりとめた少年には、ダイラスたちの言葉は通じなかったが、突然、彼は集落の言葉で言う。

 「ぼく…は、…ヴァリ」。

 5年が経ち、ヴァリと名乗った少年は、なんとか集落の一員として暮らしてきた。行方不明のヴァリと仲の良かった少年たちからは、‟ヴァリの偽物″と言われて衝突しながらも、狩りの名手として成長し始めていた。ダイラスは、生まれたときに定められた巫女になる宿命を一日延ばしにしながらも、少年たちと狩りに出かけていた。

 ある日、ヴァリとダイラスは、狩場の外れで、そこにいるはずのない存在「朽屍」がうろついているのを見かける。

 触れるものすべてを腐らせる恐ろしい朽屍は、分を超えて自然の資源を貪り、大地の呪いを受けて永遠に「死亡の谷」に閉じ込められた旧い時代の先住民の成れの果ての姿だった。

 集落の周辺にまで迫って来た朽屍を、集落の勇士たちは、彼らが恐れる水と、玉の鉾で応戦するが……。
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 2000年以上前、文字のない時代を舞台にしたストーリーは、もちろん著者が想像し、生み出したものですが、物語に登場する玉鉾や玉管、そして玉玦などは、すべて実際に卑南遺跡から出土し、史前文化博物館に収録されているものをモデルにしているそうです(本書の前書きによると、本作は国立台湾史前文化博物館と出版社・蓋亜文化との共同創作プロジェクトからスタートした作品のようです)。

 そして「人獸形玉玦」で、二人の人間が押し戴いている獣「雲豹」は、物語の中で、人々を導く存在として重要な役割を果たします。第七章での雲豹の登場のしかたは、ぐっと胸に迫ります。

風暴之子_背
 ↑本の背にも、人獸形玉玦のマーク(国立台湾史前文化博物館のマーク)が!

 この数年、台湾の創作のテーマは、どんどん時代を遡る傾向(日本統治時代から17世紀へ)にあります。帯に「初の台湾先史時代ファンタジー冒険小説」とあるように、本書はさらにぐぐっと時代を遡って、失われた古代文明の世界を描いた意欲作といえます。