『瑕疵人型』
(仮題:欠陥人型) 著者:林新惠
 *2020年台湾文学賞 金典賞、蓓蕾賞(新人賞)をW受賞

瑕疵人型_書影

――人類と機械、どちらが冷酷か。 
――人類と機械、どちらが孤独か。
現在と近未来、荒唐無稽と現実の間に存在する、
「小さな故障」を抱えた者ものから、静かにこぼれ落ちた断片たち


 合理性とエコロジーの観点から生身の人間同士の結婚が冷遇され、バーチャル配偶者との結婚生活が奨励されている近未来で、‟夫”を模範的に遂行する男の日常。(「一具」) 
 
 母を看取り、一人暮らしとなった青年が帰宅すると、湯気のたつ夕食が食卓に揃い、その向こうの椅子には、買ったばかりのビニール製空気人形が座っていた。(「安妮」)

 ある日、左手の甲の肉がぽろりと落ちた。血も出ず、痛みもない。次は親指の腹。一片、また一片と剥落していく、肉。それは彼女だけに起きている異変ではなかった。(「剥落」)

     *     *     *

 1990年生まれの新世代作家による17篇の短編集。
 SF的、あるいは不条理ショートショート的な設定と要素をもつ作品群ながら、そこに描かれているのは現代で都市生活を送る人々が抱える「孤独」と「寂寞」だ。

 同時に、人間と非人間の、親と子の、男と女の、自分と他人の境界にあるものは何か(――そもそもそこに「境界」はあるのか?)を、超現実的な出来事に対応する人物たちの行動を通し、淡々とした静かな筆致で問いかけている。

     *     *     *

「この小説をふりかえると、登場する人物はそれぞれに「glitch (小さな故障)」を抱えていることに気づいた。

 生活のどこかに、何かの綻びが出現する。それはごく小さくて、他人にはほぼ気づかれず、本人もなんとか生活を続けていくことができている。だがある日、何かのきっかけでどうにも自分を保つことができなくなった時、彼らはその綻びの中に転がり落ちる(中略)。

 glitchを持ったこんな人物たちは、人類というより、むしろ機械のようなものかもしれない。だから、彼らのことを「人型」と呼ぶことにした。人類の形をした機械、或いは機械の形をした人類かもしれない。いずれにしろ、人類と機械の境界は、曖昧模糊としている」
――著者あとがきより

【著者】林新惠 (りん・しんけい/リン・シンホイ)
1990年生まれ。林栄三文学賞、打狗鳳邑文学賞受賞。本作品が初の単行本出版。『聯合文学』誌編集を経て、2020年現在、政治大学台湾文学大学院博士課程在籍中。修士論文「拼裝主體:台灣當代小說的賽伯格閱讀(組み立てられる主体:台湾現代小説のサイボーグ的考察)」が、2017 年台湾文学館年度傑出修士論文賞を受賞。研究テーマは科学技術人文学と生態人文学。

出版社:時報文化
刊行:2020年5月初版
長さ:252頁、中国語で約7万8000字
カテゴリー:台湾文学(SF、都市小説、新世代作家)
博客来リンク:https://www.books.com.tw/products/0010857820

【収録作】
一具 (一体) *試訳あり
Lone Circulates Lone (LCL)
安妮(Annie)
跳舞的Kuma(踊るクマ)
馬路 (大通り)
說話 (話す)
虛掩 (半開きのドア)

││
剝落
剪(切る)
小物(雑貨)
旅館 
電梯 (エレベーター)
行李箱 (スーツケース)
佑佑 (ヨウヨウ)
你說 (どうかな?)

│││
假花(造花)
Hotel California

【後記】瑕疵無處回收 (回収できない欠陥品)


★本作品の版権に関するお問い合わせは、下記までお願いします。
太台本屋tai-tai books  rights.ttb@gmail.com