〔短編小説集〕『海邊的房間』黄麗群
 仮題:海辺の部屋
海邊的房間

主人公・Fは小学生一年生の時、父に「お前の本当の父親は、お前が生まれて間もなく出ていった。おれはお前の母親と結婚したが、母親もすぐに出ていった」と言われた。彼女はその継父、後に叔父と呼ぶ人とその後もずっと一緒に住んでいて、徐々に大きくなってきた。叔父は自宅で開業医をしている。敏腕な中医で、鍼が特に長けている。彼女は叔父の巧みな手腕でずぬけて綺麗に成長している。いつか叔父離れを考えている彼女は、ある日彼氏と海外に行くことを言い出した。すると、叔父の反応は……。(「海辺の部屋」)

40代後半で独身、駐車場の収金事務員として働く彼女は、賃貸の狭小部屋を女子学生とシェアして住み、ペット禁止の部屋でこっそり猫を飼っている。大雨の日に拾った猫を抱いて近所のペット病院に行き、男性獣医師の綺麗な手、やさしい声に惹かれた。その後、彼女の猫は次から次へと怪我をし、何回も病院に駆けこんだ。猫の怪我は全部彼女の仕業では……?(「猫病」)

ある日、街のあちこちに「1023」という文字が現れた。次第に市民の間でうわさになり、テレビ局などのメディアも「1023」の謎を追いかけた。この謎の数字はストリートアートか、それとも広告の新しい手法か? タクシー運転手も記者もあれこれ憶測する。しばらくして、「pm1200」という文字も出現した。この後、一体どんなことが起きるのか、市民全員が興味津々で見守るなか、事件は起こり……(「1023」)

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 著者・黄麗群が1998〜2010年に書いた13の短編小説を収録。著者は、新聞、雑誌等にコラムやエッセイを多く執筆している。もともと小説家になる強い志望はなく、発表した小説はそれほど多くはないが、一般読者だけではなく、作家にもファンが多い。不定期に自由時報などに作品を発表するたびに、メディアやSNS上で話題やコメントが多く寄せられ、台湾での人気の高さが可視化される。

鋭い筆致と冷徹な洞見で、人間の無意識な行為に現れる心の不条理や、世間の苛酷さなど、人間社会の暗黒な一面を静かに炙り出す。穏やかに綴られる文章は、あるところで読者の思いもよらない急展開を見せ、その衝撃に圧倒される。その後味は、読み手の心に、いつまでも奇妙な味わいを残す。

「麗群とはそういう作家なのだ。佇まいは濃艶幽美だが、その美しさの内から、じんわりと涼気が滲んでくる。彼女の文章は陽だまりのような温度を持ち、にわか雨のようにすばやい。穏やかに晴れた午後、平和な日々の温かさを楽しんでいる。ところが瞬く間に、どこからともなく黒雲が湧きあがり、土砂降りに変わる。読み手は、ここではっと我に返り、背筋を伸ばして、何かを悟る。この時、怪しく謎めいた一輪の奇妙な花が、読者の心で綻び出すのである」
――柯裕棻(作家)推薦文より

【著者】黄麗群 (こう・れいぐん/ファン・リーチュン)
1979年台北生まれ。旅やライフスタイルのネットメディアのライターを経て、現在雑誌『新活水』の編集長。政治大学哲学科卒業。台湾の3大新聞文学賞―時報、聯合報、林栄三文学賞と、出版大賞・金鼎賞を受賞。エッセイには『背後歌』『感覺有點奢侈的事』『我與貍奴不出門』、不定期的に小説やエッセイを発表し続けている。https://sabrinahuanglichun.wordpress.com/
★黄麗群の散文『我與貍奴不出門』(私と猫はひきこもり)の紹介は→こちら

【収録作】
海辺の部屋
夢入り者
転んだ青の小人
決闘よ!決闘!
嫁をもらう
占い師
猫病
1023
何もない時の同じ心
手紙
三輪車、はやい
貞女如玉
第三者
あとがき――潮間帯にいる

『海邊的房間』 仮題:海辺の部屋
著者:黄麗群(こう・れいぐん)
出版社:聯合文学
刊行:2012年1月初版
長さ:262頁、中国語で約8万字
カテゴリー:台湾文学
*2005年時報文学賞・短編小説評審賞
*2006年聯合報文学賞・短編小説評審賞、短編小説首賞
*2010年林榮三文学賞・短編小説賞
現在12刷、1万5000部のロングセラー
博客来リンク:
https://www.books.com.tw/products/0010529907

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