こんにちは。店員Sです。毎年恒例、昨一年で発表された台湾の主な文学関連賞について、2022年分をまとめてみたいと思います。

 昨年に続き、台湾出版界で比較的重要視されている文学賞である「金鼎獎」「臺灣文學獎金典獎」「Openbook好書獎」「台北國際書展書展大獎」そして「聯合報文學獎」の受賞作品、作家を見ていきます。(文中、敬称略)

 各賞の受賞作品は、作品名、著者名、出版社名をあげるにとどめます。各賞や各作品について、さらに詳しいことが知りたい場合は、リンク先の各賞のオフィシャルサイトをご覧下さい。

*     *     *

〇金鼎獎 
 台湾政府文化部が主催する、その年の優れた出版物に与える賞です。
 1976年に始まり、2022年は第46回。
 「図書」「雑誌」「デジタル出版物」「政府刊行物」の4大分類21項目の賞に分かれており、例えば「図書」類には「文学図書賞」「非文学図書賞」「児童及び少年図書賞」「図書編集賞」「図書挿絵賞」の5つの賞があります。

 毎年4月、前年の1月1日から12月31日までに刊行された出版物を、出版社や団体などが賞に応募(自推です)、9月に受賞作品が発表されます。2022年は、1,300点近い応募の中から、30作品が受賞したほか、60作品が優良出版物として選定されました。2022年の選評委員の名簿を見ると、作家や大学教授、新聞の編集長などの名前が並んでいます(昨年は独立書店の店長などの名前も見られたのですが、今年は大学教授など硬めの人選のようです)。

【受賞作品】
●文學圖書獎
《成為真正的人》甘耀明 寶瓶文化
《八尺門的辯護人》唐福睿 鏡文學
《幻影號的奇航》胡長松 前衛出版
《時間也許從不站在我們這邊》鍾耀華 春山出版

●非文學圖書獎
《蔣經國的台灣時代:中華民國與冷戰下的台灣》林孝庭 讀書共和國 
《真相製造:從聖戰士媽媽、極權政府、網軍教練、境外勢力、打假部隊、內容農場主人到政府小編》  
 劉致昕 春山出版
《危殆生活:無家者的社會世界與幫助網絡》黃克先 春山出版
《毒藥貓理論:恐懼與暴力的社會根源》王明珂 允晨文化

●兒童及少年圖書獎
《從前從前,火車來到小島》黃薏文(黃一文) 玉山社
《我的同學是一隻熊》張友漁、蔣孟芸(貓魚) 親子天下
《病毒不是故意的?!──認識傳染病大小事》林大利、郭人毓(玉子) 遠見天下
《留白少年》葉安德 和英文化

●圖書插畫獎
《什麼將把你帶走》Croter洪添賢

●第46回金鼎獎オフィシャルサイト →リンク


〇臺灣文學獎 金典獎
【概要】
 台南にある国立台湾文学館」が主催する文学賞です。
 毎年6月の募集に、出版社などが直近の1年間に刊行した作品を応募し、審査員が最終審査ノミネート作品や受賞作品を選出、11月に発表されます。
 2022年の金典獎は、2021年7月1日から2022年 6月 30 日までに台湾の国内で出版された書籍、電子書籍、自費出版物などが応募可能。今年は、2021年7月~22年3月刊行のものを4月15日から1か月間、22年4月~6月刊行のものを6月1日から1か月間受け付ける、という2つの期間に分けて募集されました。
 今年は203点の応募作品(出版社などからの自推です)の中から、30作品が最終審査にノミネートされました。入選作品30点の書影付きリストが、こちらで見られます→リンク

 ノミネートの中から「金典獎」が8作品選ばれ、その中の最優秀作品を「金典年度大獎」(賞金100万元!)として選出します。また、新人賞である「蓓蕾獎」が3作品に贈られます。

【受賞作品】
●金典年度大獎
《白色畫像》賴香吟 印刻 
●金典獎
《激流與倒影》林懷民 時報出版
《樓上的好人》陳思宏 鏡文學
《流氓王信福》張娟芬 衛城出版
《那一天我們跟在雞屁股後面尋路》何玟珒 九歌 
《地鐵站》何致和 木馬文化 
《女兒》零雨 印刻
●金典獎および蓓蕾獎(新人賞)
《菊花如何夜行軍》鍾永豐 春山出版
《走進布農的山》郭彥仁(郭熊) 大家出版
《八尺門的辯護人》唐福睿 鏡文學

●臺灣文學獎オフィシャルサイトリンク 


台北國際書展「書展大獎」
書展大獎

 「台北國際書展書展大獎」は、年に一度開催される台北国際書展(台北国際ブックフェア)の運営者である財團法人台北書展基金會が主催する賞で、ブックフェア開催の1か月ほど前に発表

 2023年で第31回の開催となる台北国際書展は、例年、旧正月の前後(1月末から2月あたま)に開催されています。2020年、2021年は、コロナウィルスの流行のため、2年連続で開催直前にリアルからオンラインのみに変更となり、2022年は会期を延期して6月に開催されました。2023年は4年ぶりにコロナ前と同時期の開催となり、海外からのゲストも多数呼ぶなど、台湾各出版社の期待も高まっています。
 「台北國際書展書展大獎」は、2021年10月1日から2022年9月30日に刊行された中文作品が応募可能(こちらも出版社や作家からの自薦です)。今回の応募総数は846点、うち小説が98点、非小說類が410点、兒童及び青少年図書が241件でした。この中から各部門10作品が最終選考にノミネートされ、各3作品が「首獎」(大賞)を受賞します。大賞の入賞賞金は10万元です。

「小說獎」首獎
《白色畫像》賴香吟 印刻
《八尺門的辯護人》唐福睿 鏡文學
《煙街》沐羽 木馬文化

「非小說獎」首獎:
《激流與倒影》林懷民 時報文化
《紅房子:圓山大飯店的當時與此刻》李桐豪 鏡文學
《臺灣惡地誌:見證臺灣造山運動與四百年淺山文明生態史》
 蘇淑娟、梁舒婷、吳依璇、劉閎逸、柯伶樺、邱峋文、黃惠敏 野人文化

「兒童及青少年獎」首獎:
《再見的練習》林小杯 是路故事
《夜間觀察》邱承宗 親子天下
《冒牌機器人》林滿秋, Asta Wu  未來出版

「編輯獎」首獎:
《臺灣美術兩百年(上下冊套書)》顏娟英  春山出版

2023 台北國際書展書展大獎 受賞作発表サイト→リンク


〇 Openbook好書獎
2022Openbook好書獎
出典:https://www.openbook.org.tw/article/p-67042

【概要】
 「Openbook好書獎」主催の「Openbook閱讀誌」は、出版に関するウェブメディアで、書評、出版人インタビュー、出版産業に関する独自取材記事、全国の書店でのイベント情報などを発信する、非常に充実したプラットフォームです。
 年間で固定された「選書チーム」があり、出版社からOpenbook閱讀誌編集部に送られてくる新刊書見本や、選書スタッフ自らが発掘してきた新刊書を精読。毎月の会議を経て、ノミネート作品をリストアップしていくそうです(ここで選ばれた本は、毎週「OB短評」としてテーマごとにサイトで紹介されます)。

 「Openbook好書獎」は2017年にスタートし、2022年は6年目。
 2021年11月から22年10月に刊行され、Openbookの選書スタッフが読んだ2,974点の書籍から、まずは211作品をピックアップ(そのリストは→こちら)。編集者、作家、書評家、研究者などが最終審査を行い、「年度中文創作」「年度翻譯書」「年度生活書」「年度青少年圖書/年度童書」の4つの部門ごとに、それぞれ10作品の「年度書(Book of the Year)」が選出され、12月に発表がありました。

 前出の、金鼎獎、臺灣文學金典獎、台北國際書展書展大獎は「出版社が応募(自推)した作品を審査の対象としている」のに対し、「Openbook好書獎」は主催者の選書スタッフが1年に渡って出版市場に目を光らせ、実際に読んで選出していることが、この章の大きな特徴です。  
 審査対象作品も約3,000点と、他の賞に比べて圧倒的に多く、「1年間の出版に幅広く目を光らせている」信頼度があります。
 Openbook好書獎のノミネートの基準は、「この1年に出た本の中から、一般読者に読み逃してほしくない作品」を選出している、とあります。同様に、作品のリーダビリティを重要視し、「読書の楽しみを味わいながら、視野を広げることができる本」を優先して選ぶなど、あくまでも「読者に読んでほしい」「読書を楽しむ人を増やしたい」という意図で選んでいるとのこと。
 読者に一番近い出版賞と言ってもいいでしょう。

【受賞作品】*「年度中文創作」のみ紹介。
●年度中文創作
《女兒》零雨 印刻出版
《不只哀悼:如果記憶有形狀》鄭安齊 沃時文化出版
《危殆生活:無家者的社會世界與幫助網絡》黃克先 春山文化
《沒有信箱的男人》夏曼‧藍波安 聯合文學
《走進布農的山》郭彥仁(郭熊) 大家出版
《夜的大赦》曹馭博 雙囍出版 
《波間弦話》柳丹秋 時報出版
《病從所願:我知道病是怎麼來的》隱匿 聯合文學
《煙街》沐羽 木馬文化
《臺灣美術兩百年》顏娟英、蔡家丘總策畫 春山出版

●Openbook好書獎2020オフィシャルサイト →リンク



〇聯合報文學獎
【概要】
  もうひとつ、台湾の大きめの文学賞「聯合報文學獎」について紹介します。
 「聯合報文學獎」は、台湾最大部数をもつ新聞社「聯合報」と、その関連団体「聯合報系文化基金會」の主催による文学賞です。毎年、6月に発表されます。1979年に、前身となる聯合報小說獎が始まり、2014年から聯合報文學獎と名称を改め、2022年が第9回となります。
 他の文学賞との違いは、個別の作品ではなく、この3年間に発表された作品を基に「作家個人に対して贈られる賞」だということです。
 大賞受賞者(1名)には、なんと101万台湾元(≒約400万円)の賞金が与えられます。

 2022年の「聯合報文學大獎」は、『冬将軍が来た夏』『鬼殺し』『神秘列車』等、日本でも多数の翻訳が刊行されている甘耀明さんが受賞しました。


【受賞作家、ノミネート作家】
●聯合報文學大獎
甘耀明 この3年以内の近作:《成為真正的人》※日本語版は白水社から刊行予定
    その他の代表作:《邦查女孩》
●ノミネート作家の近作と代表作
鍾文音  《別送》《溝》《別送》《想你到大海》
零雨  《女兒》《膚色的時光》
陳芳明  《邊界與燈》《革命與詩》《深淵與火》《邊界與燈》
張大春   《南國之冬》《我的老台北》《南國之冬》

関連記事:【第九屆聯合報文學大獎評審會議記錄】→リンク


*     *     *

 2022年の出版関連賞をさらっとご紹介してきました。  
 台湾では、年間に約6万点の書籍のISBNが申請されています(但し、これは教科書等も含む数なので、書店で販売される一般的な書籍はその半分程度)
 太台本屋 tai-tai booksが日本に紹介する台湾作品を選ぶときにも、それだけ多くの作品を前にどれを選んでよいか途方に暮れるのですが、こうした出版関連賞もひとつの参考にしています。
(もちろん、台湾で賞を獲った本が、必ずしも日本の読者が読んで面白いとは限らないので、あくまでも「一つの参考」程度です)

 今後も面白い作品を日本の皆さんに紹介していきますよ!

2021年分の記事は→こちら
2020年分の記事は→こちら

こちら↓の記事もどうぞ。




(文責/店員S)