3月16日夜、東京・赤坂で開かれた「‟老屋顔“の魅力を語ろう――『台湾レトロ建築案内』著者お話会――」のレポート、その最終回。

今回のイベントの参加募集は、誕生したばかりの我々のユニット「太台本屋 tai-tai books」のtwitterFacebookだけで告知しましたが、20名の枠は、告知開始から1日もたたないうちに満員御礼をいただきました。
老屋顔」への注目度が高いことの表れですが、こんな小さな情報を見つけて申し込みをしてくれた参加者各位は、「台湾のレトロ建築」というマイナーなテーマに相当に熱い関心を寄せている方々だけに、イベント後半のQ&Aでは、熱心な質問が多数寄せられました。
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                                     (写真提供:中村加代子)

非常に有意義なQ&Aだったので、ここにその一部を収録します。
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Q.日本では路上観察の愛好者も多いが、台湾にもそのようなブームがあるのでしょうか?

老屋顔:
「台湾でも、路上観察や建物観察のようなことを個人でやっていた人はもちろんいると思う。僕たちはたまたま、それをSNS上で発信する、“広める技術”を持っていたので、そのムーブメントを可視化したのだと思う。僕たちがFBでこの活動をするようになってから、他の多くの人も老屋の情報を発信するようになった。ある人は老屋の歴史方面に関心のある人、デザインに関心のある人など、それぞれの興味のある分野で観察を掘り下げて、僕たちのFBでもそれをシェアしてくれるようになった」


Q.二人はどんなきっかけでこのユニットを組むことになったのですか?

楊朝景さん:(以下、「楊さん」と表記)
「僕はもともと高雄在住で、辛さんは桃園に住んでいた。2011年に高雄の駁二藝術特区で行われたあるデザイン関係のコンテストで彼が賞を取り、スピーチをするために高雄に来た。その時に、高雄のアート系の人々のコミュニティーを通じて知り合って、意気投合したんだ。

辛永勝さん:(以下、「辛さん」と表記)
「その後、一緒に台南に遊びに行ったときに、風景や人をたくさん写真に撮った。家に帰ってその写真を整理していたら、台南で撮ったほとんどの写真の背景に、老屋が映り込んでいることに気が付いて、とても興味を持ったんだ」
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                                        (写真提供:張維中)
楊さん:
「僕たちも最初は、鉄窓花にこのようなユニークなデザインがあることは知らなかった。僕はもともと理系なので、ただ単純に“小さなモチーフ幾何学的が集合して作られる美しさ”に惹かれて、窓格子を観察するようになった。鉄窓花は、レトロ建築を象徴するアイテㇺなので、それを写真にとることを目的に台南に遊びに行くようになった。

また、ある時、古い家に住んでいるおばあさんとお話ししていて、「これは私たちが自分で建てた家。これが私たちの家族が住む“家”で、売り買いして儲けたりするようなものではない」と話すのを聞いた。彼らは自分の家を、手入れしたり補修したりしながら、長い間大事に住んできた。僕たちは、そうやって住んでいる家主さんやその家族の人たちのストーリーはとても貴重だと思った。だから、それを記録して、伝えていきたいと思ったんだ。

そのうち僕の当時の仕事が一段落し、同じこころに辛さんの仕事も一段落したので、集中していままで撮りためた写真を整理して、FBに上げるようになった。これが「老屋顔」の活動の始まりだ。そして僕は、結局プログラマーの仕事を辞めて、この人文アート系の世界に入ってしまった


Q.二人が取材しているようなレトロ建築は、台湾にはまだたくさんあるのでしょうか?

老屋顔:

老屋顔のFBページは、僕たち二人が一方的に発信するのではなく、レトロ建築に興味がある人が自分が見つけた情報をUPして交換する場になっている。僕ら二人だけでは台湾中のこれだけ多くの老屋の情報を集めることは無理だった。これだけの情報が集まったということは、台湾でそれだけ多くの人がレトロ建築に興味を持っているということなんだ。

写真などで寄せられた情報は、なるべく自分たちで現地に行って写真を撮ることにしている。FBに読者が上げてくれる写真はスマホでとられたものが多いが、やはり自分のカメラできちんと撮ったほうが、あとから整理したり加工したりしやすいからだ。

FBに寄せられた情報をもとに、取材旅行のルートを組む。僕らが住んでいる高雄から近い台南は一つの路地をもう何十回も歩いている。少し遠いところに行くときは、まずその場所まで車で行って、それから自転車に乗り換えてゆっくり観察することにしている。

読者から寄せられた情報をもとに取材に行く場合は、まずは予習としてGoogle mapで現地の様子を確認してみる。ある場所は、Google mapで見た時はまだ存在していたが、実際に現地に行ってみると、もうとり壊されて無くなっていたということもよくある


Q.鉄窓花や磨石子細工の職人さんは今どのくらいいて、技術はまだ継承されているのでしょうか?

老屋顔:
「例えば、鉄窓花を作る職人の技術は失われてはいない。でもいま、鉄窓花を作るのはとても高いので、それを注文しようという人はとても少ない。実際、台湾各地にはまだ鉄窓花を作る工場は残っているけど、そこで職人さんと話していると、”今のように鉄窓花の需要がないのであれば、もう作るのをやめて他の仕事をしたほうがいいのではと思っている”という話がよく出る

以前は鉄窓花の需要が多く、職人さんも多かったので、脚から注文されたものを若い弟子たちが作っていたので、工賃はそれほど高くなかった。でも今は職人が少なくなっているので、材料費よりも工賃がかなり高くなっているのが、鉄窓花が高くなった原因だ。

また、鉄窓花は錆びやすいので何年かに一度ペンキを塗りなおす必要がるなど、メンテナンスにも手間がかかる。ステンレスなどのさびない素材が出現して、それが多用されるようになったが、ステンレスは鉄に比べて硬いので、細かい細工をすることができない。
また、鉄窓花は本来は防犯の目的で設置するものだ。以前は1階から2階建ての家が多かったので、泥棒除けのために鉄格子を付けていたが、いまは建物が高層化して、高層階では防犯の鉄格子は不要になっている。

最近は防犯などの実用的な目的ではなく、そのデザイン性が好まれて、家具やインテリアとして使われることも増えている。そのような需要が増えていけば、この技術もまだ伝わっていくと思う


Q.レトロ建築が好きな旅行者に、特にお薦めの町や場所がありますか?

老屋顔:
もし1、2日でたくさんの建築を見たかったら、やはり台南をお薦めする。台湾の中でも長い歴史のある場所だから、いわゆる歴史的建築もたくさんあるし、商業都市として発展したので、お金持ちの商人が建てた趣向を凝らした美しい建物が多い。特に中西区あたりがお薦めだ。

あるいは、彰化の駅前の路地にもたくさんのレトロ建築が残っている。本にも紹介されている彰化の「紅葉食趣」は、オーナーの女性がとても親切で、そこを訪ねて「鉄窓花に興味がある」と言ったら、きっと付近で観るべき鉄窓花をたくさん紹介してくれると思う。


Q.台湾には、どうしてこんなに多くの老屋が残っているのですか? また、老屋が多い地域や少ない地域がありますか?

老屋顔:
「多少の地域差はある。例えば台北は発展が早かったので、古い建物の多くは開発により取り壊されてしまった。でも台南は、ここ数年の観光ブームが起こる前は、経済発展が遅れていたので、多くの古い建物が取り壊されずにそのまま残っていた。中部も似たような状況があると思う。

また、最近はレトロ建築がブームになって、多くの古い建物がリノベーションされてお店として使われるようになった。このようなブームがあって、いままで使用されていなかった古い建物が、新たに補修・維持されるようになっている。

もともとのオーナーには、古い建物はもう価値がないし、不便な部分も多いので、取り壊して立て直したいと考えていた人もいる。一方、現在、多くの若者がレトロ建築でお店をやりたいと希望している。それならば、壊さずにそうした人に貸してもいいと考えるオーナーさんも出てきた。若い世代の考え方が、前の世代の考え方を変え、老屋に新しい価値を与えている


Q.老屋顔の二人は、この本を出すことによって人生が変わったと思いますが、今後、はどのような活動をしていきたいのでしょうか?

老屋顔:
もともと老屋顔の活動は、単純に“面白いものを見つけたので、みんなにシェアしたい”という気持ちでSNSにアップしたことから始まっている。その後、出版社の人に声をかけられて、書籍を出すことになり、それをきっかけにいろんな場所に呼ばれて、話をしたりいろんな人と会ったりすることができた。そしてまた、今回それが日本で翻訳出版されて日本の読者が読んでくれて、こうして日本に来ることもできた。振り返ると、これはとても不思議な旅路だったと思うし、とても感謝している
FacebookやInstagramを通じて、海外のレトロ建築好きや路上観察の愛好者と知り合うこともできた。今回も、Facebook上でつながった、関西の路上観察愛好家の人たちに会うことになっているので、とても楽しみだ。

私たちは、単に鉄窓花や磨石子などのディティールの表面上の面白さだけを紹介したいのではなくて、それらに象徴される、人の生活の細やかな、でもとても素晴らしい部分を伝えていきたいと思っている」
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この後、老屋顔の二人からサプライズで会の参加者全員に「老屋顔デザイングッズ」セットのプレゼントが配られました。鉄窓花の写真を美しく加工したポストカード、タイルや鉄窓花のモチーフからデザインしたマスキングテープ、磨石子細工の数字部分の写真をピックアップしたステッカーのセットです。
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これらのグッズは、台湾各地のデザイン系雑貨店などで販売されているが、日本からもPinkoiサイトを通じた通販で購入することができます。

実はトークの最後でも、これらのグッズの写真が紹介されたのだが、老屋顔の二人は「宣伝になっちゃうので申し訳ない」ととても恥ずかしがり、そそくさと紹介を切り上げてしまいました。
前職を辞めてまでこの活動をしている割には、全く商売っ気のない老屋顔の二人に代わって、ここで宣伝します。
すてきなグッズなので、このようなレトロかわいいグッズが好きな方は、ぜひ購入してください。

Pinkoi「老屋顏工房」https://jp.pinkoi.com/store/oldhouseface

(記録:太台本屋 tai-tai books 店員S)

3月16日「『台湾レトロ建築案内』著者お話会」トーク再録(その1)
3月16日「『台湾レトロ建築案内』著者お話会」トーク再録(その2)

その他、老屋顔関連リンク:
Facebook「老屋顏」   https://www.facebook.com/OldHouseFace/