こんにちは。太台本屋tai-tai books の店員Sです。

台北国際ブックフェアの合間に、台湾大学近くにあるアンダー グラウンド漫画喫茶「Mangasick」さんを訪問しました。


Mangasickは、捷運グリーンラインの公館と台電大樓の中間あたり、大通りから2本ほど入った路地にあります。台湾大学の正門からもほど近いこの周辺は、学生街の例に漏れず、多くの書店(チェーン店、独立書店、古本屋、漫画専門店などなど)や、カフェ、ライブハウス、CDショップ、雑貨店などが集中する、台北のサブカル聖地の一つです。

これが入り口。
ふつうのアパートの1階にあり、看板はありません。電灯がついていたら「開店中」です。
IMG_E8815


外側のドアを開けると、看板は出ていますが、真っ暗な地下に続く階段です。
”アングラ漫画喫茶”とタイトルにつけましたが、雰囲気の比喩だけではなく、本当にアンダーグラウンドにあるのです)
IMG_E8819

その下にはさらにドア。しかも“ここで靴を脱げ”との指示が……。
「世界一入りにくい本屋」と言っても過言ではないエントランス。
IMG_8821[1]
(実は店員S、4年前に初めて来た時は、恐れをなしてここで一旦引き返しました)

恐る恐る、2つ目のドアを開けると、そこには明るいギャラリーが現れます。
IMG_E8830
ギャラリーでは、台湾内外の漫画家、イラストレーターなどの作品を特集展示しています。
さらに、その奥は、オーナーさんたちがセレクトした台湾内外のコミック、zine、関連商品、CD、カセットテープ(!)などを販売する販売エリアと、利用料を支払うことで飲み物付きで自由に漫画を読むことができる漫画閲覧エリアに分かれます。

ギャラリー奥の販売エリア。
IMG_E8837

台湾、香港、中国のzineや、独立系出版社から出ているコミック本、画集などが並びます。
IMG_E8836

香港からのインディー系ビジュアルブックも多数。かなりの品揃えです。
IMG_8823


奥が、漫画閲覧スペース。
IMG_E8832
「Mangasick」さんのセレクトを一言で表現すると「台北のタコシェ」。
お店のアングラな佇まいを裏切らず、特にギャラリー展示の人選や販売エリアの品揃えは、かなり独自の方向性です。

一方、漫画閲覧スペースの蔵書は、そこまで強烈な尖りかたではなく、メジャーマイナーに関わらず「力のある作品」が揃っていました。
IMG_8822

台湾の大手コミック出版社が出している比較的メジャー系な日本コミックの台湾版もいろいろあります。
IMG_E8827

雑誌『アックス』など、いわゆるガロ系作品を出している青林工藝舎とは、直接取引をして本を仕入れています。
IMG_E8825

こちらが、オーナーのお二人。
左が店長の黄廷玉さん、右が副店長の黃鴻硯さん。二人とも現役の翻訳者で、数多くの日本のコミック作品の翻訳を手掛けています。
IMG_8840
黄廷玉さんは五十嵐大介作品や高野文子作品の台湾版の翻訳、黃鴻硯さんは松本大洋作品の台湾版のほか、英文小説の中国語への翻訳もしています。
IMG_8826
 ↑黃鴻硯さんが翻訳した松本大洋作品の台湾版。

台湾では日本のコミックは大人気。
かつて(2010年くらいまで)は「日本で刊行されるコミック作品の少なくとも半分以上」は正式に翻訳出版されていました。
(正式な数字ではありませんが、十年来、日本のコミック作品の台湾への許諾業務に携わってきた店員Sのざっくり感覚で)

ところがその後、中国本土の違法アップロードサイト(いろいろなコミック作品がタダで読めるサイト。いま日本でも話題になっている「漫画村」と同様のもの)の影響で台湾版の漫画単行本がどんどん売れなくなり、台湾の出版社も刊行点数をどんどん絞りました。
その結果、アニメ化などがされるメジャーな作品はまだ翻訳されますが、青年誌作品や作家性の強いマイナーな作品は翻訳出版されなくなりました

このままでは、台湾で読めるコミックの多様性が失われてしまう!ということを危惧した2人が、台湾の読者への「漫画啓蒙活動」のために、2013年に自らこのお店を開いたそうです。

日本のコミックのことをこれほど愛してくれて、こんなに尽力してくれている人たちが台北にいるなんて! 日本のコミック関係者に知ってほしいんですよ、ほんと (涙)

私は毎回ここに来ると、オーナーさんたちが最近注目している作家さんや作品について推薦してもらうことにしています。

これは、前々回推薦してもらった、中国の作家・早稲さんの作品『松風』
水墨画の技法とコミック的キャラ立ちのマッチングがユニークです。
IMG_9660


そして、前回推薦してもらった、原動力文化の「漫画植劇場」シリーズ。
公共電視台(公共テレビ局)のドラマシリーズ「植劇場」のコミカライズシリーズです。
IMG_7150
(背景の畳は、Mangasickさん改装前のもので、今はありません)

今回は、妖怪ブームの火付け役の一つ『妖怪臺灣』作者・何敬堯氏原作、『蘭人異聞録』などで躍動的な画力を見せるKinono先生作画という強力タッグで作られた同人誌『華麗島玄奇録』を購入。
IMG_8835


最近は日本のソーシャルメディアで紹介されることも多く、一日に1組くらいは日本からのお客さんが来るそうです。

オーナーのお二人はもちろん日本語が堪能なので、中国語圏のインディーズ系コミックで何か探している作品や知りたいことがあれば、訊ねてみてください。

初めて入るときはちょっと敷居が高い感じがしますが、勇気を振り絞ってぜひ訪ねてみてくださいね。


ギャラリー展示は定期的に替わるのでFBをチェック。

台北市羅斯福路3段244巷10弄2號B1
営業時間:14:00~22:00 水休 (詳しくはFB等で確認のこと)
漫画閲覧スペース利用料金:200元(1ドリンク付き)
※平日は時間制限無し。土・日・祝は4時間まで