台湾の少年#1-4
脚本 游珮芸、漫画 周見信『台湾の少年』
訳  倉本知明 岩波書店
1 統治時代生まれ 2022年7月7日刊行
2 収容所島の十年 2022年7月7日刊行
3 戒厳令下の編集者 2022年9月刊行予定
4 民主化の時代へ 2022年11月刊行予定

特設サイト:



【メディア掲載・イベント等】
・毎日新聞 2023-03-11朝刊 書評掲載 評者: 川本三郎(評論家)→リンク(有料記事)
・朝日新聞 2022-12-03朝刊 紹介掲載 評者: ササキバラ・ゴウ(まんが編集者)→リンク(有料記事)
・日経新聞 2022-08-20朝刊 
・週刊新潮   2023年5月25日号「Bookwormの読書万巻」で、深澤真紀氏が紹介。→リンク



ーーーーー以下は、版権売込み時の原書の紹介です。2021年7月23日UPーーーーー
脚本 游珮芸、漫画 周見信『來自清水的孩子Son of Formosa』(全4巻)
2020年 慢工文化事業有限公司 

 日本統治時代の1930年に生まれ、戦後は児童雑誌『王子』を創設し、一世を風靡した蔡焜霖(ツァイ・クンリン)氏。のちの台湾漫画界で活躍する台湾人漫画家を育てるなど、台湾出版界に大きな功績を残した。
 そして、蔡焜霖氏は、戒厳令下の台湾で国民党政府により行われた「白色恐怖(白色テロ)」の被害者であり、その語り部でもある。

 本書『來自清水的孩子Son of Formosa』は、ごく普通の庶民であった蔡焜霖氏の半生を通じ、台湾現代史の軌跡を描き出すグラフィックノベルだ。

*     *     *

本好きの少年が学徒兵になるまで

 1930年、日本統治時代の台中・清水街に生まれた蔡焜霖(敬称略、以下同)。幼稚園時代から日本語で教育を受け、本を読むのが大好きだった。
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 焜霖は、台中第一中学校入学後、学徒兵として勤労中に終戦・光復を迎える。
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高2のときに参加した「読書会」で投獄

 日本が去った台湾に国民党がやってきて、慣れない思想・制度・言葉が、焜霖たちを困惑させる。1947年、二二八事件が起き、地方都市の高校生である焜霖にも、じわじわと恐怖政治の影が忍び寄る。1950年、学校卒業後、地元の役場で事務員として働く焜霖は、在学中に参加した「読書会」が「反乱組織」であったと見なされて憲兵隊に捕らえられ、厳しい尋問(拷問)ののちに軍法会議にかけられ、政治犯として十年の徒刑が確定する。
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 台湾島内の軍法処や看守所(監獄)を移動させられた後、焜霖は離島・緑島にある強制収容所に送られる。そこは、本当に社会運動に参加していた人だけでなく、焜霖のような無実の人びとや、医者、作家、芸術家などの知識人らも服役していた。
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 焜霖は、10年の歳月をひたすら耐えて過ごし、1960年ようやく退所した時は、既に30歳になっていた。
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児童雑誌「王子」で子どもたちをとりこに

 職を求めて台北へ上京した焜霖は、広告代理店、児童書出版社や漫画出版社の編集などの仕事をしながら、夜間学校にも通う。
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 60年代中ごろ当時、漫画は子どもや若者に大人気だったが、政府の厳しい取り締まりと検閲により、漫画の出版業は衰退しようとしていた。かつての仕事仲間たちが困窮しているのを見かねて、1967年、焜霖は自ら児童雑誌『王子』の出版を敢行する。
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 豊富な内容と斬新な宣伝方法が功を奏し、『王子』はたちまち台湾の子どもたちの心をつかんだ。
 しかし――。

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台湾児童文学のベテラン2人による力作

 『來自清水的孩子Son of Formosa』は、游珮芸氏の脚本と、周見信氏の漫画により制作されている。
 脚本の游珮芸氏は、児童文学の研究家、評論家であり、60作以上の児童書や絵本の訳書を持つ翻訳家でもある。
 また、漫画を描いた周見信氏は、『小朱鸝』『小白』『尋貓啟事』『小松鼠與老榕樹』などの作品があるベテランの絵本作家であり、版画、水墨画風、細密画風など、多彩な作風での創作が高い評価を受けている。本書でも、穏やかな少年時代を描く淡い鉛筆タッチの繊細な画風から始まり、時代が不穏さを増していくにつれ、線は次第に荒々しく、太くなり、画面も重苦しく暗くなっていく。退所後、児童雑誌をめぐって奮闘する姿は活力にあふれるタッチで描かれる。
  
 台湾児童文学界のベテラン2人が全力を尽くして創作した力作である。

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人権問題、民主化運動を描くグラフィックノベルの新星

 人権問題や、民主化運動をテーマにしたグラフィックノベルは、世界各国で描かれている。
 アート・スピーゲルマンの『マウス――アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』や、マルジャン・サトラピの『ペルセポリス』、ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン、ネイト・パウエルの『MARCH』、リアド・サトゥフの未来のアラブ人パク・ゴヌンのウジョとソナ 独立運動家夫婦の子育て日記などが、その代表的な例だろう。『來自清水的孩子Son of Formosa』は、そのリストに、台湾から新しく名を連ねる新星だ。

 台湾では、1949年から1987年までの38年間に渡り、国民党政権下で戒厳令がしかれていた。
 台湾では現在、この時代の恐怖政治や白色テロについて、今までタブーとされてきた出来事や事実を明るみに出して検証し、責任を追及し、被抑圧者を救済しようとする「轉型正義」(Transitional Justice/移行期的正義)の動きが盛んだ。
 オンラインゲーム、映画、ドラマという、現代に人に受け入れやすいエンターテインメントの形をとって白色テロの記憶を描いた『返校』のヒットは記憶に新しい。出版界でも「白色テロ」時代に関する出版物の刊行が相次いている。『讓過去成為此刻:臺灣白色恐怖小說選』シリーズ(春山出版)などが、その代表的な例だが、もちろん作家の個々の作品の中にも、濃淡はあるが、白色テロを意識させる要素が描かれたものは多数ある。

 本作『本作來自清水的孩子Son of Formosa』も、その中で生まれた新しい傑作の一つだ。日本の読者の方々に読んでいただく日が待ち遠しい。

『本作來自清水的孩子Son of Formosa』
第一冊. 愛讀冊的少年(読書の好きな少年)リンク
第二冊. 綠島十年(緑島の十年)リンク
第三冊. 王子時代(『王子』時代)リンク
第四冊. 化作千風(千の風になって)リンク 

●蔡焜霖氏のこと
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 蔡焜霖氏は、台北郊外・景美にある、白色テロ時代に看守所および軍事法廷として使用されていた場所にある「国家人権博物館」で、白色テロの実際を語り伝えるガイドをされている(蔡氏が緑島移送以前に実際に収監されていたのは台北市青島東路の「警備総司令部軍法所看守所」だった)。自らが経験した国家権力による人権侵害を、多くの人に知ってもらうための活動を続けている。
●国家人権博物館 https://www.nhrm.gov.tw/

(店員S)